始まる一歩前
ようやく、見つけました。
My Style
明くる日の朝早く、はいつもより1時間早く目を覚ました。
焦点の合っていない虚ろな瞳を、まだ薄暗い窓の外へと向ける。
――なんでこんなに早く起きたんだろ・・・
まだ起きていない頭でそんな事を考えたは、ベッドに再び体を沈めた。
そして、瞼で瞳を覆い寝る体制に入った。
が。
「・・・寝れない・・・」
眠たいはずなのに寝れないとは、一体どうしたことだろう。
もう一度身体を起こして、首を捻った。
けれど、そうこうしている内にの頭は完全に目覚める。
――あ〜ぁ。寝れないじゃん。
何故だか損した気分になるものの、仕方ないとばかりに肩をすくめて、はベッドから足を下ろした。
ヒンヤリと、床の冷たさが素足に伝わる。
その冷たさに、少し顔をしかめた。
「ん〜〜〜」
腕を伸ばし、背筋を伸ばす。
それから、朝のストレッチに入る。
それが済むと、今度は庭にでて、ポストから郵便物をとってくる。
はぁ、と吐く息が白くなってゆくのが見て分かる。
ポストの中には、新聞と父宛の手紙と同じく父宛の請求書が数枚。
それから・・・
「あ、私宛だ」
宛の手紙が、一通。
すぐは差出人を確認した。
もしかしたら、この前応募したD.Gray−manの懸賞に当たったのかもしれない!
そんな淡い期待を胸に、緊張で高鳴る胸の鼓動を抑えながら差出人の名を確認する。
「・・・ん?“異世界旅行会社”?」
差出人は、が全く知らない会社からだった。
がっくりと肩を落とす。
の中で、懸賞の夢が音を立てて崩れていった。
あ〜あ。
少しでも淡い期待を覚えてしまったこの手紙に、恨めしげな瞳をぶつける。
畜生ぉ。この手紙野郎め・・・変な会社名しやがって!
一瞬、手紙をビリビリに破ってしまいたい衝動にかられるが、
――だめ、、大人になるのよ!こんな些細なことで怒っちゃだめ!大人の階段上るのよ!
理性を総動員して、なんとか押しとどめた。
そしてもう一度、今度は舐めるようにこの奇妙な手紙を見た。
差出人は、“異世界旅行会社”。
宛名は“ ”。
「・・・オイオイ、私はこんな会社知らないよ〜?」
手紙に問いかけてみるが、当然返答はない。
「ふぇっくしゅん!」
の鼻から鼻水がたれた。
夢小説の主人公とは思えないアクシデント。
パジャマの袖で鼻水を拭った後、はキョロキョロと周りに人が居ないのを確認した。
朝早いということもあって、周りには誰も居なかった。
ほっと息をついて、は家の中に入ってゆく。
リビングに入ってすぐ、はエアコンのスイッチを入れた。
もってきた手紙は、乱暴にテーブルの上に投げ出す。
今は11月。
受験生のたちにとって、この時期のこの季節は天敵と言っても過言ではない。
ほんの少しかじかんだ手を暖房に近づけ暖めながら、テーブルの上に乱雑に置かれた手紙――あの奇妙な手紙だ――に目を向けた。
それから、本当に自分に心当たりがないのかどうか確かめる。
「やっぱ、知らないってあんな悪戯な手紙なんて・・・」
やはり、いくら自分の記憶の中を探っても“異世界旅行会社”の文字は見当たらない。
ようやく温まった手をエアコンから外し、テーブルの上の手紙を手にした。
もう一度よく観察してみるが、さきほどとなんら変わりは無かった。
は意を決して、ふうを開けた。
中から出てきたのは、いたって普通の便箋。
少しだけがっかりしたものの、すぐ気を取り直して、手紙を読み始めた。
『拝啓、様
貴方はこの現実世界に飽き飽きしていませんか?
貴方は違う世界へ行ってみたくありませんか?
少しでもその願望があるのでしたら、我々“異世界旅行会社”にお任せ下さい。
つきましては、11月11日の午後11時11分にお近くの公園のジャングルジムの一番上に御越し下さい』
・・・なぜジャングルジム?
そんな疑問はさて置き、はニヤリと口元を綻ばせた。
「へぇ。結構趣味のいい悪戯考えるじゃん」
それはそれは、酷く楽しそうには言う。
それから、読み終えた手紙を封筒に戻そうとした。
が
「あれ?入らない・・・」
首をかしげ、ためしに封筒を逆さにしてみた。
すると、“シャラン”
鎖につながれた、十字架と鍵のネックレスが封筒から滑り落ちたではないか。
そのネックレスは、アンティークもので、の趣味に適うものだった。
は、さらに笑みを深くする。
「これはもう、行くしかないよね」
でも、壱琉には黙っておこう。
そう心の中で密かに誓い、は学校へ行く仕度をするために、二階の自室へと向って行った。
変わり始めた世界の終わり