仕事上の都合です。
「おはよう・・・」
朝、目が覚めて一階のリビングに行くと、そこは素晴らしいことになっていた。
溺愛症候群
第イチ病.転入 T
寝ぼけ眼を擦り、今自分が見ている光景が幻であるかを確かめる。
けれど、それは幻でもなんでもなかったらしい。
「・・・何があったの?」
思わずその場で硬直してしまったあと、元凶である兄と父に訊いた。
「あ、ちゃん!おはよう。」
「お前、起きんのが遅ぇんだよ」
爽やかにアイサツしてくる父と、口が悪い兄。
その二人の手には、ブレザーやらセーラー服やら、学ランやらの制服類が握られている。
もちろん、それは床一面にも散乱していたりする。
絶句・・・
と言うか、開いた口が塞がらない。
「・・・何があったの?」
再度同じ質問をする。
状況が把握できていない。
「えっとね、ちゃんの制服を選んでたんだよ!」
「お前、今日から新しい学校だろ?でも、まだそこの制服来てねぇからな。代わりの選んでやってるんだよ」
「ありがた迷惑って言葉知ってる?」
何故か達成感あふれた顔で言う兄の顔に一発お見舞いしてやって、床に散乱している制服を見た。
と、ここで疑問が1つ。
一体、どうやってこんな大量の制服を手に入れたんだ?
大体の想像はつくものの、一応真相を確かめるべく兄と父に問いかけた。
「ねぇ、誰がこんな大量な制服を入手したの?」
首を傾げて問うと、兄は満面の笑みで答えた。
「俺の親友が送ってきてくれたんだよ。“妹に好きな制服を選んでやってくれ”ってな」
え・・・
予想外の展開に、ビックリです。
だって、この制服は兄の趣味で裏ルートから入手したものだとばっかり・・・!!
しかも、兄の親友って・・・アノヒトでしょ?
私は心の中で兄の親友の姿を思い浮かべた。
(つか、兄の友達は親友のアノ人しか居ない。あぁ、何て悲しい・・・ププッ。おっと、笑っちゃ可哀想だ)
彼は、金髪に茶色の瞳をしてる誰がどうみても整った美形さんで、とてもじゃないけどこんな大量に制服を所持しているなんて想像がつかない。
性格も、温厚で人情があって優しくてついでにユーモアセンスバツグン。
そんなひとが・・・そんなヒトが・・・
こんな変態チックな趣味があったとは!!(わざわざ買ったという選択肢は私の中には微塵も無い)
ガラガラと、彼へのイメージが音を立てて崩れていった。
「ま、でもこの大半は俺のだけどな!」
放心状態だった私に、まさかの爆弾投下。
今、何ておっしゃいました?
「ワォ、兄貴・・・そんなに捻りつぶされたいの?つか、コノヤロウ!!今すぐ頭が地球の中心までめり込む位下げて謝れぇぇぇぇ!!」
兄の首を絞めながら、私はそれを前後左右に激しく揺らした。
兄の顔はだんだん真っ青になっていく。
それでも、私はやめない。
殺意250%くらいの私は、容赦なく首を絞める手に力を加える。
あ、兄の口元から泡が・・・
「ちゃん、そろそろヤバイから止めてあげて?」
ようやく父のストップが掛かったので、私はパッと首から手を放した。
“ゴンッ”
床に崩れ落ちた兄の頭が、上手い具合に床に当たって嫌な音を立てた。
けれど、私と父は何事も無かったようにテーブルに着き、広げられた朝食に手を付ける。
「あ、今日は和食なんだ?」
「そうだよ。今日は和って気分だったんだ」
和やかな雰囲気で、食べる朝食はおいしい。
(父が作る料理はなんでも美味しいけどね!!)
母を早くに亡くした私は、今 兄と父との3人暮らし。
家事全般は主に父がやってくれるけど、兄は何もしない。
(まぁ、仕事が入ってくればちゃんとやるけどね)
家も比較的裕福で、何不自由が無い。
そんな私の兄と父の仕事は・・・
マフィアです。
必殺仕事人もビックリな“殺し屋”。
・・・ん?
殺し屋・・・じゃないな。
でも、マフィア。
だれが何と言おうと、2人の仕事がマフィアだってことに代わりは無いわけで・・・。
かく言う私も、一応建前上としては“殺人兵器”だったりしちゃう。
キャー大変。
おまわりさんに捕まっちゃう★
とか言う心配は皆無です。
要らん心配さ。
だって私、人殺してないもん。
言ったでしょ?
建前上だって。
でも、まだ私はマフィアのファミリーにはなってない。
兄と父が入ってる所に来いとはいわれたけど・・・
私、まだ中学生ですから。
将来の夢くらい見させてよ!!!
さて、そんな父&兄が入っているマフィアのファミリーとは・・・
知る人ぞ知る、結構大きな組織。
その名も
キャバッローネ。
ついでに、兄の親友はそこのボス。
なんて人と親友になっているんだろう、我が兄上は。(あ、ノリが兄になってる・・・)
「さて、そろそろ学校に行く用意してきます」
解説しながら食べてた私は、箸を空になった茶碗の上に綺麗にそろえて乗せた。
そして立ち上がり、リビングの出入り口へと向う。
「あれ、制服どうするの?」
「・・・面倒くさいから、前の学校のでいい」
父にそういい残して、リビングを出た。
向うは自分の部屋。
クローゼットの中から、セーラー服を取り出した。
そう、前の学校の制服は、セーラー服。
ついでにスカーフの色は純白だ。
着ていたパジャマ代わりのTシャツ短パンを脱ぎ捨てて、右足の太もも辺りにガーターベルトを巻く。
そこに、長さ30cmあまりの棒を差した。
これが、私の武器である。
(折りたたみ式で、本当の棒の長さは60cm!)
いや、棒が武器なんじゃないよ。
本当の武器は、鎖鎌。
It’s a KUSARIGAMA!!
ローマ字にする必要はないけどさ。
私の鎖鎌は、ボンゴレファミリー直属の武器職人さんに作ってもらったもの。
あ、ボンゴレファミリーってのはキャバッローネの同盟ファミリーの中心に位置するファミリーのことね。
兎に角、コレか使い勝手がいい。
私にぴったりフィットする辺りが最高!!
ん?
どこに鎖とか鎌があるかって?
この棒の中さ。
棒の中に収納が可能で、刃だって棒の中にしまえる。
(ただし私の鎖鎌は棒の両端に刃が付いてるんだよね)
それから、上と下に刃が付いてるから棒の半分辺りで取り外し可能なんだ!
だから、鎖に繋がれてる鎌とそのまま使える鎌が出来て二刀流・・・とかも出来る。
その上、下の部分に付いている刃をしまったまま上の刃は出しておいて、本当の長さの棒に戻したら大鎌の出来上がりィ!!
鎖の長さは自由自在だから、鎖鎌としてもちゃんと戦える。
いやぁ。
良い仕事してますな!
スカートを履いて、セーラーの上を被れば、準備完了!!
さぁ、今日から新しい生活の始まりさ!!
転入の理由も忘れて浮かれてる