どうせ面食いですよ
「ねぇ、何でココにいるの?」
「あはは、お気になさらず」
応接室に勝手に入り込み、その上ソファを占領したままヘラリと笑みを見せてくる。
なんだか無性に咬み殺したくなる。
けれど、それをしないのは今、風紀委員長としての書類を片付けているから。
(つまり、デスクワーク中)
「雲雀さ〜ん。手が止まってますよ?」
一体、誰のせいだと思っているんだか。
ため息を付いて鋭い視線をに向けた。
「あはっ。そんなお顔もステキですねっ」
にっこりと笑顔で言ってくる。
本当、咬み殺してもいい?
学ランの袖に忍ばせているトンファーを出し、チャッキと音を立てて構えた。
(まぁ、本当に殺るつもりはないけれどね)(だけど半分脅しの意味は入ってる)
案の定、は顔を青くさせて座っているソファの上を後退していった。
「うわわっ、ごめんなさい。調子に乗ってました」
その言葉に気をよくした僕は、口元で弧を描く。
それから、出していたトンファーを元あったところに戻した。
ほっと息をつく。
それを見てから、再び視線を書類に戻した。
「ねぇねぇ、雲雀さん〜」
・・・。
まだものの十秒とたっていないのに、は退屈したような声で話しかけてきた。
今日中にこの書類を仕上げなくてはならないので、無視を決め込む。
「雲雀さんってば〜」
「・・・」
「雲雀さん」
「・・・」
「雲雀さん、雲雀さん」
「・・・」
「雲雀さん雲雀さん雲雀さん雲雀さん雲雀さんっ!」
「・・・」
「雲雀さん雲雀さん雲雀さん雲雀さん雲雀さん雲雀さん雲雀さん・・・恭弥?」
ガタンッ
柄にも無く、思わず持っていたペンを落としてしまった。
それはもちろん、が僕の名を呼んだからで
(苗字の方はどうでもよかったんだけど。寧ろ、ウザかった)
落としてしまったペンを拾い上げて、何気なくの方をみると、目を丸くして驚いていた。
「雲雀さん・・・なんか、可愛いですね!」
「・・・・・・咬み殺す」
両手を合わせて目を輝かせるに、ボソリと一言。
ついでに、仕込みトンファーも出しておく。
「雲雀さん、顔赤くて全然怖くないですよ?」
とか言いつつも、両手を方の位置まで上げて降参のポーズをとっているところを見ると、少しはこのトンファーの餌食になるのが怖いらしい。
けれど、自分の顔に熱が集中しているのもまた事実。
「ツンデレですね」
「へぇ、そんな生意気な口、僕にきいてもいいんだ?」
「へ? ブフッ」
トンファーで殴るのは気が引けたので、近くにあった国語辞典をの顔に投げつけた。
見事に国語辞典は、の顔面に直撃。
ま、狙ったからね。
少しやりすぎたか?と罪悪感にほんの少し駆られたが、当然の報いだと、その気持ちを追いやった。
「酷いれす・・・雲雀ひゃん」
右手で鼻を覆い、少しくぐもった声で講義を唱える。
「当然の報いでしょ。手加減してあげたんだから、感謝してよ」
視線は書類に向けたままで言う。
顔の熱さはもう消えた。
「雲雀さん」
「何?」
あと少しで書類も片付くというところで、が控えめに声を掛けてきた。
少し余裕が出来たということで、僕はそれに答える。
「・・・好きですよ?」
どうやら、この娘は不意打ちが好きらしい。
突然の告白に、僕はピタリと行動を止めてしまったが、それは一瞬に終わる。
はぁ、と息をついて口を開いた。
「趣味、悪いね。君。」
「んなっ!悪くないですよ!これでも、趣味はいいと自負してるんですから!」
「だってさ、普通、僕を選ぶ?何で僕なのさ?」
(不良で、君に釣り合うわけがないのに)
「それは―――・・・」
だって私、面食いですから!
(それって、顔がよければ誰でもいいんじゃないの?)
(違います!私が好きなのは雲雀さんだけですから!)
(・・・あ、そ。)
(何だかんだ言って雲雀さんも私のこと好きなんじゃないですか〜? あっ、スミマセン!もう言いませんから、トンファー出すのやめてくださいっ)